夜になると、理由もなく目が覚めることはありませんか。
時計を見るたび、同じ時刻を指していたら。
それが偶然ではなく、誰かに「見せられている」のだとしたら。
これは、ノクヴェルへ送られた一つの記録です。
ノクヴェル・アーカイブ ― File.003 ―
私は一人暮らしを始めて3年になる。
築15年の、ごく普通のアパート。
駅から徒歩10分。
仕事から帰り、食事をして眠るだけの生活だった。
異変に気付いたのは、ある雨の日だった。
夜中に目が覚める。
何気なく枕元のスマートフォンを見る。
2:44
そのまま眠った。

翌日も。
翌々日も。
毎晩、目が覚める時刻は決まって2:44だった。
最初は偶然だと思っていた。
だが、1週間続くと気味が悪い。
ある夜。
私は眠らず、その時刻を待つことにした。
部屋の照明を消す。
テレビも消す。
スマートフォンだけを見つめる。
2:43
……
2:43
秒だけが静かに進んでいく。
そして、
2:44
その瞬間だった。
部屋中の音が消えた。
エアコン。
冷蔵庫。
外を走る車。
雨音。
何も聞こえない。
世界から音だけが消えたようだった。
静寂の中で、
壁掛け時計だけが
カチッ。
と一度だけ鳴る。
そして、
秒針が止まった。
私は時計へ近付いた。
秒針は12を指したまま動かない。
だが、
スマートフォンだけは正常に動いている。
私は壁掛け時計へ手を伸ばした。
その時。
耳元で、
誰かが囁いた。
「見つけた。」
振り返る。
誰もいない。
玄関も閉まっている。
窓も閉まっている。
部屋には私しかいない
翌朝。
壁掛け時計は何事もなかったように動いていた。
夢だった。
そう思うことにした。
だが、その夜も、
私は2:44に目を覚ました。
また音が消えた。
私は原因を調べ始めた。
検索サイト。
SNS。
掲示板。
どこにも同じ現象は見当たらない。
検索結果の最後に、
古いブログが1件だけ表示された。
タイトルはない。
白い画面に、
一文だけ書かれていた。
2:44に時計を見るな。
投稿日は12年前。
それ以外の記事は存在しなかった。
その夜。
私は時計を見ないことにした。
布団をかぶる。
目を閉じる。
やがて、
部屋から音が消えた。
2:44になった。
私は時計を見ない。
見ない。
そう決めていた。
その時だった。
耳元で、
昨日と同じ声がした。
今度は、はっきりと。
「どうして今日は見ないの。」
私は反射的に目を開いた。
スマートフォンの画面が光っている。
表示された時刻は、
2:44
時計アプリではなかった。
カメラが起動していた。
画面いっぱいに映っていたのは、
眠っている私。

真上から撮影された映像だった。
私は反射的に天井を見上げた。
何もいない。
静寂だけが続く。
その瞬間。
スマートフォンが震えた。
通知は表示されていない。
私は何気なく写真アプリを開いた。
最新の写真が、
1枚だけ増えていた。
恐る恐る開く。
そこに写っていたのは、
今、この写真を見ている私。
スマートフォンを握る手。
驚いた表情。

そして、
画面のこちら側を見つめる私。
撮影時刻。
2:44
私は時計を確認した。
時刻は、
2:45
だった。
ノクヴェル保管記録
この記録は、2026年8月に匿名でノクヴェルへ送付されたものです。
スマートフォンには、撮影者不明の写真が1枚だけ保存されていました。
写真の撮影時刻は午前2時44分。
しかし、端末の操作履歴では、その写真が保存されたのは午前2時45分でした。
画像解析の結果、撮影位置は天井から約2.7メートルの高さと推定されています。
なお、その位置に撮影者が存在できる構造物は確認されませんでした。
