最後の閲覧者

ホラー

夜が深まる頃、この場所には誰にも公開されない記録が静かに保管されています。
噂として消えた事件。説明のつかない出来事。そして、最後まで真実が語られなかった物語。
あなたが今から開くのは、ノクヴェルに残された一冊の記録です。
どうか最後まで、目を離さないでください。

ノクヴェル・アーカイブ ー  File.001 ー

私は、地方新聞社で働く記者だった。

事件や事故を取材する、ごく普通の仕事だ。

あの日までは。

編集部へ一本の電話が入った。

「廃病院で白い人影が歩いている。」

最初は誰も相手にしなかった。

心霊スポットの噂など、毎年いくつも流れては消える。

しかし、その電話だけは少し違った。

「写真があります。」

送られてきた画像には、確かに廃病院の廊下が写っていた。

奥の窓際に、人影のような白い影が立っている。

だが、それより気になったのは別のことだった。

画像の右下。

撮影日時が、三日後になっていた。

カメラの設定ミスだろう。

そう笑って済ませることもできた。

私は念のため、その送り主へ連絡した。

だが、電話は繋がらない。

住所を訪ねても空き家だった。

近所の住人は首を傾げる。

「その名前の人なら、もう十年以上前に亡くなっていますよ。」

私は画像を持って廃病院へ向かった。

昼間だった。

薄暗いだけで、特別なことは何もない。

写真と同じ場所を見つけ、同じ構図で一枚撮影する。

当然、人影など写っていない。

私は安心して帰宅した。

その夜。

パソコンで写真を開いた。

昼間に撮ったはずの廊下。

窓際に、誰かが立っていた。

白い服を着た、細い人影。

私は慌てて元データを確認した。

拡大する。

顔は見えない。

だが、その人物だけは、不自然なくらい鮮明だった。

そして画面をさらに拡大した瞬間、背筋が凍った。

その人物は、こちらを向いていたのではない。

カメラの後ろにいる誰かを見ていた。

私は思わず振り返った。

誰もいない。

部屋には私一人。

そう思った。

そのとき、机の上のスマートフォンが震えた。

━━━━━━━━━━━━━━

差出人:不明

件名:なし

本文

 『次は、あなたが写る番です。』

━━━━━━━━━━━━━━

私はすぐに警察へ相談した。

だが、そのメールは送信履歴が存在しなかった。

写真も、いつの間にか白い人影だけが消えていた。

証拠は何一つ残らなかった。

私は会社を辞めた。

あの日以来、一度もカメラを持っていない。

それでも時々、知らない番号から画像が届く。

どれも廃病院の廊下だ。

毎回少しずつ近づいてくる白い人影。

そして最新の一枚には、人影が写っていなかった。

代わりに、廊下の窓ガラスへ映る一人の男。

それは、カメラを構える私だった。

 

ノクヴェル保管記録

この記録は、2026年8月に匿名でノクヴェルへ送付されたものです。
差出人の身元は現在も確認されていません。
添付されていた写真は存在しますが、公開は許可されていません。

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