404号室

ホラー

夜が深まる頃、この場所には誰にも公開されない記録が静かに保管されています。
噂として消えた事件。説明のつかない出来事。そして、最後まで真実が語られなかった物語。
あなたが今から開くのは、ノクヴェルに残された一冊の記録です。
どうか最後まで、目を離さないでください。

ノクヴェル・アーカイブ ― File.002 ―

私は地方新聞社で働く記者だった。

出張は珍しくない。

その日も地方都市で一泊するだけの仕事だった。

駅前の古いビジネスホテル。

受付の女性は笑顔で鍵を差し出した。

「403号室になります。」

私は礼を言い、エレベーターへ乗った。

3階で降り、部屋へ向かう。

その途中だった。

廊下の突き当たり。

照明の届かない場所に、

404号室

と書かれたプレートが見えた。

だが、不思議だった。

館内案内図には403号室までしか載っていない。

私は気になってフロントへ戻った。

「あの……404号室って。」

受付の女性は一瞬だけ表情を止めた。

しかし、すぐに笑顔へ戻る。

「昔の表示が残っているだけですよ。」

「今は403号室までしか使用していません。」

少し違和感は残ったが、

私はその説明を信じた。

夜。

仕事を終え、

部屋の明かりを消した。

眠りかけた頃。

コン。

壁の向こうから、

小さな音がした。

隣の宿泊客だろう。

そう思った。

数分後。

また、

コン。

今度は近い。

まるで廊下から聞こえる。

私はドアスコープを覗いた。

誰もいない。

長い廊下だけが静かに続いていた。

翌朝。

部屋を出ると、

清掃員の女性が声を掛けてきた。

「昨日……

ノック、聞こえませんでしたか。」

私は思わず足を止めた。

「聞こえました。」

女性は少し俯き、

それ以上何も言わず掃除を続けた。

その夜も同じホテルだった。

午前2時。

コン。

1回。

コン。

2回。

そして、

コン。

3回目。

私は勢いよくドアを開けた。

誰もいない。

だが、

廊下の一番奥だけ照明が点いている。

そこには、

404号室。

存在しないはずの部屋。

扉が、

わずかに開いていた。

私は吸い寄せられるように歩き出した。

扉の前へ立つ。

中は暗い。

「誰かいますか。」

返事はない。

恐る恐る扉を押す。

部屋には何もなかった。

家具も。

ベッドも。

時計も。

ただ一枚。

壁に大きな鏡だけが立っていた。

私は鏡へ近づく。

映っている。

私だけ。

安心した。

その瞬間だった。

鏡の中の私が、

ゆっくりと口を開いた。

「やっと来た。」

私は息をのんだ。

鏡の中の私は笑っている。

現実の私は笑っていない。

次の瞬間。

鏡の中の私が、

一歩。

こちらへ踏み出した。

気付くと朝だった。

私は403号室のベッドで目を覚ました。

夢だった。

そう思うことにした。

急いで荷物をまとめ、

ホテルを後にした。

数週間後。

会社で出張報告書を書いていると、

同僚が声を掛けてきた。

「そういえば、

あのホテルどうだった?」

「403号室だったよ。」

私は答えた。

すると同僚は首をかしげた。

「違うよ。」

「会社の宿泊記録、

404号室になってる。」

私は笑った。

冗談だと思った。

その日の夜。

予約メールを開く。

部屋番号。

404号室。

最初からそう書かれている。

変更履歴もない。

私はホテルへ電話を掛けた。

数回の呼び出し音。

若い男性が出た。

事情を説明すると、

受話器の向こうが静かになった。

そして、

低い声で言った。

「……404号室ですね。」

私は返事ができなかった。

男は続けた。

「その部屋へ入られた方には、

一つだけお願いしています。」

私は受話器を握り締めた。

「今夜。」

「もし、

ドアをノックする音が聞こえても。」

「絶対に開けないでください。」

電話は切れた。

その夜。

午前2時。

コン。

私は布団の中で耳を塞いだ。

聞こえない。

そう思い込もうとした。

コン。

2回目。

コン。

3回目。

震える手で時計を見る。

2:04

その瞬間。

玄関ではなく、

部屋の中から

ノックの音がした。

私はゆっくり振り返る。

そこには、

昨夜までなかったはずの扉があった。

白いプレートには、

黒い数字が浮かんでいた。

404

ノクヴェル保管記録

この記録は、2026年8月に匿名でノクヴェルへ送付されたものです。

差出人の身元は現在も確認されていません。

宿泊記録には404号室が記録されていますが、ホテルの設計図・消防申請書・建築当時の資料を確認した結果、その部屋は開業当初から一度も存在していませんでした。

なお、この記録の送付以降も、同ホテルに関する同様の報告が断続的に届いています。

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